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医師ヨハン メディカル系ドラマの感想も含めての雑感

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医師ヨハン Doctor John 全16話 (2019年 SBS)

10秒でその患者の身体をスキャンできる、天才医師ヨハンを描くメディカルヒューマンドラマ。

日本の小説「神の手」をリメイクした作品だそうですが、原作は2010年に刊行され、2019年にWOWOWでドラマ化され、椎名桔平さんが主役の医師をされました。終末期医療を扱い、安楽死の是非を問いかけた作品でした。主人公の世代は50代でしたが、この「医師ヨハン」の方が10年若い世代設定ですね。

安楽死事件で、チソンさん演ずるヨハン医師は刑務所から登場するシーンで始まりますが、全体を通して語られるのは、患者の痛みに対して寄り添い、それを治療する医師の姿でした。ヨハン自身も遺伝的病気を患っていたというのも原作とは違います。原作にヒントを得て創作したメディカルドラマだと思います。「神の手」という意味では、10秒で患者の症状をスキャンできるのは神の手かもしれません。「手」が患者さんと人間医師が触れられるたった一つの部分ですから。

全体を通して医師としてのヨハンと人間ヨハンの苦悩が描かれていましたが、「尊厳死・安楽死」」というテーマは、成熟した認識が必要だから、この作品でも曖昧なままで終わりましたね。人間ヨハンの医師として、男としての苦悩を描いたドラマだった…..こんなことを思いながら視聴完走しました。

医師ヨハンは、流石に医師としての冷静さと迅速に対処する能力を感じられる医師として登場され、ペインクリニックを舞台に繰り広げられました。「痛みの原因を追求し、その痛みを緩和する医療」の現場です。

ペインクリニックを訪れる患者さんは、痛みが原因で心も身体も疲弊している方々ばかりです。原因がわからない患者さんが多いのです。
急性の痛みは、原因が取り除かれれば、改善します。しかしその痛みが慢性化させてしまうと、より強い痛みや新しい痛みが加わり、身体的、精神的、社会的要因が複雑に絡み合い普通に生活することができなくなります。ペインクリニックは、症状や身体の状態から多角的に痛みの原因を診断し、痛みを取り除く治療をするのです。麻酔科が治療に当たるのですが、麻酔科医は、日本では、医師の国家試験に合格した後に5年間の研修があり、麻酔科医専門医試験で合格しないとなれないのです。そんな難関を経て麻酔科医になった方々が活躍するドラマです。(少しこだわり長すぎる説明ですいません)

どちらかというと医療系ドラマは、派手な外科手術や、病院内での権力争いが中心になる作品が多く、その中では「ドクタープリズナー」が権力争いの場が刑務所だったというのが、意表を突き、頭の切れる医師が復讐と権力の座を求めたストーリーでした。
また、脳神経外科医とか心臓外科医とか麻酔科医とかスペックの高〜い医師のドラマがほとんどです。権威のある医者が好きなのかもしれません。そういう意味では「浪漫ドクターキム・サブ」「病院船」は異色だったのかもしれませんね。どちらも医師の生き様を描いた作品でしたから。
そう、ヒューマンメディカルドラマのカテゴリーです。

メディカルドラマ:「強い、偉い、賢い」医師を目指す医師は、野心と欲望の塊で、地位や権力を手に入れたがる。
ヒューマンメディカルドラマ:「寄り添う、優しい、和らげる」患者の治癒を目指す医師は、人間味あふれる医師となる。

キャスト一覧

脚本:キム・ジウン 「ジキルとハイドに恋した私」「清潭洞アリス」
演出:チョ・スウォン 「君の声が聞こえる」「ピノキオ」「30だけど17です」

チソン=チャ・ヨハン      ハンセ病院麻酔科医 ペインクリニック科教授
イ・セヨン=カン・シヨン    ハンセ病院麻酔科レジデント 理事長の娘
イ・ギュヒョン=ソン・ソッキ  ヨハンの担当検事
シン・ドンミ=チェ・ウジョン   ハンセ病院ホスピスセンター緩和医療チーム看護師
ファンヒ=イ・ユジョン      ハンセ病院麻酔科フェロー
チョン・ミナ=カン・ミレ     ハンセ病院麻酔科レジデント  シヨンの姉
キム・ヘウン=ミン・テギョン   ハンセ病院麻酔科麻酔科長 シヨンの母
チョン・ノミン=カン・イス    ハンセ病院財団理事長 シヨンの父
キム・ヨンフン=ハン・ミョンオ  ハンセ病院法務チームの弁護士

医師ヨハンのあらすじ

囚人番号6238、チャン・ヨハン受刑者、末期ガン患者を安楽死させたことから殺人罪で服役している医師。
患者の状態を10秒で把握できる天才医師と言われた男でしたが、末期ガンの患者(犯罪者)を安楽死させた殺人罪で服役していたのです。

刑務所の所長である叔父の勧めで医療スタッフのアルバイトを始めることにするシヨン。レジデントのシヨンがなぜ刑務所で働くことになったかは、目の前で大切な人を救えなかったから。医師の道を諦めようとしている姿に心を痛めた叔父の考えでした。

ある日急患の受刑者が発生するが、シヨンは判断に戸惑う。そこにヨハンが現れ適格にアドバイスする。
高慢な態度のヨハンに反発するシヨンだったが、患者の容体が急変、ヨハンはシヨンを励まし患者を託す。ヨハンの指示で患者の命を救ったシヨンは再び医師としての道を歩み始めることに。その後、シヨンは父が理事長を務めていたハンセ病院ペインクリニック科のレジデントとなる。

そこに最年少教授として現れたのはあのときのヨハンだった。

服役した過去を持つヨハンを採用することに病院の意見は割れるが、シヨンはヨハンの下で医師として成長していく。一方かつての事件でヨハンを起訴した検事のソン・ソッキはヨハンが復職したことを知り、警戒していた。彼は安楽死=殺人罪と考える検事で、今でもヨハンに疑いの目を光らせているのです。

感想と疑問点

医師免許って犯罪者なのに、そんな簡単に再発行されるの? 刑務所をでてすぐに大学病院の教授になれるの?
そういえば「ドクタープリズナー」でもそうだった?

ドラマは、色々な難病、遺伝病、痛みの原因を探るヨハンの懸命な活躍が描かれます。
医師同士で、診断の結果が異なり、病名が違うことも。
でもヨハンは、自分の診断結果を信じて治療を開始します。まあ〜教授だし、最終的には間違っていなかったのですから、他の医師もだんだんとヨハンを信頼し始めるのです。

ヨハンの医師としてのスキルの高さを感じさせるシーン

遺伝子病のファブリー病の患者、「ドクタープリズナー」でもこの病気でてきました。
自己免疫性神経疾患の重症筋無力症の患者(格闘家)か、ギラン・バレー症候群かという診断の違いもありました。これも眼瞼下垂といった眼の症状と呼吸筋の麻痺があるという診断で、ヨハンの診断が正しかった。

先天性無痛無汗症 CIPAの患者(キソク): 痛みを感じる神経が発育せず、痛みや熱さ、体温の上下、冷たさなどを感じにくい病気、汗をかかない。痛みを感じないために病気がひどくなるまで気がつかない。生まれつき痛みを感じない。

複合性局所疼痛症候群 CRPSの患者:末梢神経や中枢神経が損傷や障害をされたことにより、交感神経の過剰な活発化。鋭い痛みを感じ、全く痛みを感じない患者とは対照的凪病気。  風が吹くだけでも痛みを感ずる。

ニパウィルスに感染してと思われる患者….治療薬もなく致死率が非常に高いこのウィルス。患者さんはその感染症ではなく、ヨハンの診断の結果、類鼻疽菌という細菌の感染であることがわかりホッとするのです。このニパウィルス初めて聞きましたが、東南アジアなどで感染率が高いようですね。

シヨンは、ヨハンが担当する患者を安楽死させた殺人罪で服役していたこと、彼の病気を知ります。

今、目の前にいる患者を治すというヨハンは、重症筋無力症の患者がサインしていた事前延命医療意向書の存在を無視します。この患者は治癒させられると信じるヨハンだからです。次々と患者に真摯に向き合い苦痛を解消してあげる医者ヨハンの姿を見ているうちにシヨンは、服役していた事実より、彼の姿に本来あるべき医師の姿を感じて尊敬し始めます。医師だって人間ですから、ヨハンの事件は殺人ではなく事故だったかもしれません。殺人罪とはどうしても思えませんね。患者を大事にする医師のヨハンがそんなことを……..

ヨハンの病気をシヨンが知ってしまいます。CIPAの患者キソクに説明するために用意した資料、あんな簡単に教授の研究室でPCが見られるのか?セキュリティーの問題は?

麻酔なしで自分の胸の傷を縫合したヨハン、考え事をする時に中指で机を叩く癖があるから爪がうっ血して変色しているヨハン、いつもTシャツやワイシャツ一枚な姿のヨハン、全てヨハン自身がCIPAだったからです。

ウンジェ看護師とソン・ソッキ検事のあの執念の原因は

3年前にヨハンが安楽死させた患者は、誘惑殺人犯でその犠牲になったのは、ウンジェ看護師の娘だったのです。彼女はその犯人の担当看護師になっていたのです。そしてその犯人は、ソン・ソッキ検事の弟を拉致して残酷な方法で殺害もしていたのです。

幼い子供を監禁して死に追いやった犯人は苦しみ抜いて苦痛でもがきながら生きて罪を償うべきだ。苦痛で死ぬべき犯人をヨハンが救ったというウンジェ看護師。
安楽死は殺人だというソッキ検事。

末期ガン患者で誘惑殺人事件の犯人だった男に鎮痛剤を投与するのがヨハンの医師としての仕事でした。生殺し状態のような患者に恐怖から大量に投与して死に追いやってしまったというのがヨハンの裁判での言い訳でした。結果3年という刑期という判決でしたが、それでもウンジェとソッキ検事は許さなかった。

しかし事実は、意識のない犯人に、新薬の「臨床実験同意書」に無理やりウンジェ看護師がサインさせていたのです。この同意書があったためにヨハンの過失となってしまったのです。つまり彼は生きる意志があったということです。それを勝手に安楽死させたということでしょうね。

その事をヨハンは知っていたのです。彼女の痛みをわかっていたからでしょうか。でもソッキ検事は知らなかったようです。でもあの冷静な雰囲気の検事がどうしてもっとしっかり調べなかったか。やはり彼も感情が支配してしまったんでしょう。でも許されることでしょうか。裁判所の検事なんですから。

ソッキ検事が、胃ガンだったというのも都合が良すぎる設定。痛みを知ることになったソッキ検事が、新たな視線で医師ヨハンと接触し始めますが、やはり検事としは許せない。ヨハンを刑務所に入れた3年間に判明した事なんでしょうが。
彼の弟も被害者だったのならば、肉親の裁判を担当しても韓国では問題ないのでしょうか?

痛みを感じることがない医師が、麻酔鎮痛医学科の名医ですか?とウンジェは、復讐心を募らせて勝手に病院の掲示板にヨハンの病気を暴露する。
本当に嫌な看護師です。ソッキ検事は、ヨハンの行動を理解し始めていることへの警笛でしょうか。
この告発によってヨハンは医師活動の停止を病院側から勧告されますが、彼に助けてもらった人々は彼の復帰を望み署名活動をします。
ヨハンを医師として認めている数多くの患者さんがいたのです。救われるシーンです。ウンジェ看護師のやったことをヨハンは知っていました。「被害者の痛み」を理解してのヨハンの行動だったのでしょうが、刑務所に3年入り、彼の体調の問題もあるし、こんな勝手なことをした看護師が許されるなんて被害者意識丸出しのエピソードはとっても許せなくて不快でした。

ここでも安楽死か、尊厳死かに関するテーマが浮かび上がってくる。

身体の痛みと精神的な痛み、耐えられない痛みと人間はどう対処するのか?
患者の痛みを必死で究明する医師ヨハンの姿。

ケルビムを製造させたイ・ウォンギ元長官、ヨハンをハンセ病院の医師として雇用させたのもこの男の力でした。ヨハンを利用してこの新薬を世に広めようとしたのでしょう。しかし、ヨハンはその申し出をきっぱりと断る。その後この元長官は自らこの薬で命を絶つ。

痛みから逃れたくて自ら死を選んだ元長官、力強く生きたいために選んだ結果が、死を招いてしまったCIPAの患者キソクの死。

ロッククラミング中の事故でシヨンの父親が植物人間になってしまったのは、その時、父親の傷口を押さえていたシヨンですが、父はその痛みに萎えられず、父親の意思を尊重して手を離してしまったのが原因のようです。手術しても意識のないまま植物人間となってしまった父。
痛みに苦しむ父親を助けたいだけのシヨンでしたが、彼女は父を医師のくせに救えなかったというトラウマを抱えてしまい、医師を辞めようとしたのです。
その父親が、ずっと植物人間でいることで、ついに母のハンセ病院麻酔科麻酔科長も、尊厳死の選択を迫られていました。

シヨンの愛の告白と二人のその後   後半は二人の関係にやはりフォーカスされています。

全ての人間は他人の痛みを自分のことのように感じられません。ただ理解しようとするだけです。
誰かの痛みを理解することはその人を理解することだから。
私が理解しようとするのは、教授の病気ではなくて病気で苦しんでいるチャ・ヨハンという一人の人間です。

彼女は、尊敬と感謝を込めてヨハンの病気を受け入れていくうちにそれが愛に変わったのでしょう。
父親もいない、ヨハン(母親は?)の世話をしているうちに。ヨハンの体には異常が見られ始めると助けたい一心と病気への不安から彼のそばに居て彼を守りたかったのでしょう。ついにヨハンに身体の変調が現れて、麻酔疼痛学会で演説中に倒れそうになりますが、シヨンがうまくカバーします。

患者には自分を恐れない医者よりも怖さを知る医者が必要なんだとヨハン。

医者としての時間はどれだけあるか?その時間を真っ先に知らせる相手はお前だ、と言われて嬉しかったでしょう。

ヨハンはCIPAの患者キソクを通して自分を見ていたから、そのキソクの死によって自暴自棄になってしまったヨハンが可愛そうでした。
彼は、アメリカの研究所で働く事を決めます。シヨンはそんな彼を送り出しますが、不安だったでしょう。

冷たくも熱くもなかった僕の世界を温めてくれた人、僕の病気と僕を理解してくれた人」….それがシヨンだというヨハンの愛の告白は素敵でしたね。

シヨンは彼を想いながらも、レジデントからフェローになりました。そこへヨハンが現れて3年後にですけれど、お互いの愛を確認するというハッピーエンディングでの終了。イ・セヨンさん、「王になった男」の王妃様の時には輝いて見えたのですが、現代劇になると、ちょっと存在感が薄い。とっても目も大きくて美しい方なのですが、子役出身で演技もすごく丁寧なのは感じるのですが、存在感を感じない。彼女でなくてもこのような感じの女優さんいらっしゃるから。

ヨハンは、ホスピスで仕事を始めたのです。ヨハンとシヨンはお互いを医師として認めう関係、そして愛し合う関係になった。

「病院船」でのハ・ジウォン演ずる医師の言葉に、彼女の愛する医師の男を、人生の計画の中に入れて考える…というセリフがあるのですが、この言葉すごく心に残っています。冷静な判断が必要な関係なんです。
そういえば、「チョコレート」でのホスピスの医師、イ・ガン、脳神経外科医でしたが、色々とあってホスピスで働き、人間性を取り戻しましたよね。このドラマもハ・ジォン演ずるチャヨンは、ずっとガンを恋していましたよね。その愛で、彼は人間性を取り戻した。

なんかヨハンもシヨンの愛の一途さに助けられてアメリカでの闘病も頑張れたのでしょう。

屈曲した人生を歩んで医師になった男とその男を守り愛した医師の女….後半は、ヨハンとシヨンのラブロマンスのシーンが多かったですね。

緩和医療、ホスピス、尊厳死、安楽死

16話あるので、エピソードはそれぞれに充実していたと思うのですが、肝心の「神の手」の問題は、やはりうやむやでした。難しい困難な痛みの治療ができる医師ヨハンを前半は描き、後半はシヨンとのラブロマンス織り交ぜながら、彼の病気がどんどん悪くなっていく過程でも彼は医師として時間がある限り人を助けていきたいという情熱的なシーンが描かれました。チソンさんは落ち着いた雰囲気で、貫禄さえ感じましたが、落ち着きすぎていて優しい先生のような雰囲気で二人のラブロマンスにはドキドキ感はなしでした。

医師ヨハンとして、ラブは少し散りばめるくらいの方がもっと彼の医師としてのスペックを感じられたメディカル作品になったのではないかと。「ドクタープリズナー」のように。やっぱりラブが入らないと視聴率取れないのかな?

人間は生きている限りは、痛み、苦痛を感じたとしても、精一杯生きなくてはならない。
苦痛は生きている証拠、苦痛とともに生きていき、人生を苦痛とともに終える。
苦痛を分かち合える人がいれば、苦痛は軽くなり、苦痛を受け入れる準備ができるだろう。
誰かの苦痛を知り、分かち合うこと、それが生きている限りの消えない苦痛への最後の処方箋だ。

自らの命を断つようなことはしてはいけない。その痛みの原因を追求してくれる医師や、人間に出会えるか出会えないか、それがその人の持っている運なのかもしれない。
だから、自分をやはり常にそういうフィールドに立てるようにしていなくてはならない。

この「医師ヨハン」は、「原因のない苦痛はない」というヨハンの信念が中心に貫かれていました。「尊厳死・安楽死」という問題よりも「末期患者が生を終える過程で、死が近づく中で生きること」と「苦痛を分かち合えることが慰めである」「苦痛の緩和させて最後まで笑顔で生きること」緩和ケアの重要性を問いかけていますね。感想をこのドラマを見て感じました。

 

 

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