ラブレイン Love Rain 全20話(2012年 KBS)
キャスト、映像、音楽、OSTは秀逸なドラマです。
覚え書きとして残しておきたかったドラマのひとつでした。
古色蒼然として見える絵画のように陰影の濃い映像
豊かな感情表現のある俳優陣
時代の匂いを感じさせながら心を揺さぶる音楽
これらのハーモーニーから生まれる抒情豊かなシーン
チャン・グンソクさんの低音の声でのモノローグ。
目にも耳にも心地よくて気持ちがゆったりとしてくる。
ラブレイン再視聴しました。
ノスタルジックな世界観に浸りたかったのと、なぜなのかを感じるために。。。。。
理由は、ユン・ソクホ監督と同世代だから。
ユン・ソクホ監督は何を語りたいのかったのか?
なぜに評価が低いのか?
監督は、ユン・ソクホ(1957年生まれ) 70年代の恋愛愛模様は、監督の領域かな。
脚本は、オ・スヨン(1968年生まれ) 現代のパート担当かな?
ドラマはイナーユニ(70年代)、ジュンーハナ(現代)の2組の親子の恋愛模様を対比させながら描いている。
その70年代の韓国は、戒厳令があり、政府からの弾圧があり、発禁歌謡曲があり、毎日午後5時から6時頃まで行われた国旗降下式をを直立不動で見上げねばならないという時代でした。しかし描かれているイナやユニ、仲間たちはそういう現実に向き合う若者ではなく、ファッショナブルで富裕層で狭い自分の周りしか見ない青春時代を生きている。
日本では、70年代はそういう政府からの弾圧みたいな一般市民を巻き込むような時代背景はなく、「青春時代」を謳歌するようなのんびりした時代だった。
70年代ではオクテでナイーブだったイナが、その息子ジュンは「3秒で女を落とす」と豪語するプレイボーイに。
70年代では日記・手紙がお互いの気持ちを知る道具でしたが、現代ではスマホ。
気持ちを伝える手段が、お互いが向き合わない限り、手紙しかない時代。。。
この時代の恋愛の切なさ、もどかしさはわかるんですよ。。
携帯電話は、そんな切なさやもどかしさを置き去りにしてしまいましたね。
現代の若者が恋愛離れや、恋愛を面倒臭く感じるのは、スピードアップする感情伝達ツールの影響?
スマホで「会いたい」とメールし、せっかちに電話をかけ続けてハナの返事をせかすジュン。
30年かけてようやくしたためた手紙の返事をユニに渡すイナの姿を対比させて。
5話から現代に移り、サクサクとドラマが展開されていく。メローでノスタルジックな雰囲気が、コメディタッチに変化。
スピードアップする現代には、ユン・ソクホ監督には向いていない?
ここからどうもしっくりこない。
グソソク君の卓越した演技に酔いしれながらも、イナーユニの動きが気になってしまっている私。
衣装の色彩がとにかく綺麗でした。
グンソク君のコバルトブルーのジャケットは忘れられないわ〜
70年代のイナーユニの面影は、その当時の思いを彷彿とさせてくれます。
「ある愛の詩」が出てきました。日本では「愛とは決して後悔しないこと」と訳されている
“Love means never having to say you’re sorry” 愛があれば謝りの言葉は不要
流れるBGMは、サイモンとガールファンクル、ジョン・デンバー、ウィリー・ネルソン、カーペンターズ、ブラザーズ・フォーの曲を選曲しています。
このスローでノスタルジックでクラシカル「初恋」「青春」は現代の人にはもどかしいのでは?
「クリスマスに雪は降るの」あまりに身勝手な親の恋愛問題には嫌気がさし、フェードアウトしました。
でもイナーユニの初恋の切なさには応援歌を送る私です。
このドラマの視聴者がどれだけ70年代のイナーユニの恋愛を感じているか。。
チャン・グンソクのファンの方は、ただただジュンーハナを応援しているでしょうから、親の恋愛問題なんて面倒くさいだけですものね。
ノスタルジックな青春への郷愁をドラマにしたいとソクホ監督は思われたのでしょうか。
自分の美学を貫くユン・ソクホ監督の芸術家としての極みを感じる映像。
小道具、魔法のような色彩の奥深さ、音楽の選択眼には感嘆いたします。
でも、映像へのこだわりにくらべ、人物や物語、そして演出までもがパターン化しているように思えて、正直、退屈を感じる現代部分でした。
ありきたりの手法でいてクラシカルすぎる位に描かれているラブストーリーという感じは全体を通して感じます。
監督の美学は、様式美だけと感じてしまう。
映像美学の大家です。
狭い世界だけに閉じこもっているイナーユニの時代でも彼らは周りに流されてしまっている。
現代のジュンーハナは、親を思い、気遣いながら、自分たちの恋愛を模索している感はありますが、訴えてくるリアリティーがない。
もどかしい恋愛模様、ダラダラした恋愛模様、現実感のないストーリーは、監督の70年代への執着、過去への執着だけみたいな。
その時代を生きた人にしかわからない想いを秘めて、このドラマを制作した監督ですが、その想いは、監督の美意識という形でしか、伝わらなかったような気がします。
「ラブレイン」愛の雨、雨の魔法にかかって心を寄せあった男女の初恋の記憶。
このドラマは、「初恋」という傘に入った、小さい世界の二人だけ官能的な世界の物語だと解釈しております。
30年経てもユニに対する幻想を抱いている父、そんな父に執着する母のもとで育った、ジュン。
彼にとっては恋愛とは、両親の姿であり、父の報われなかったと思っている恋愛感情への複雑な男としての心境もある。
ジュンの母のペク・ヘジョンの夫だけに対する執着心、偏愛。
でも彼女も「初恋」なんですよね。
母としては、モンスター母になっていないのが救いかな。
ジュンは、「3秒で女を落とす」と豪語するプレイボーイとして登場してきているのに考えていることは古風。
ハナを好きになった理由も、「自分がハナにとって最初の男だから」という。
ハナの描き方も、ソクホ監督の貞操観念を彷彿させますね。なんか、これも今時ではない。
やっぱり古風でクラシカル。
監督はイエローが好きだと言われていましたが、傘のイエロー、ハナのイエローの装い綺麗でした。
イナは「自分の幸せは家庭にはなかった」と言って、ヘジョンから家族から離れていきますが、勝手ですよね。
ここが一番嫌い。
やっぱり狭い傘の下の恋への幻想が捨てきれない男。
新たな世界へ旅立てない男を愛してしまった女の悲劇です。
このドラマには勝手な男の妄想と女のずる賢さが見え隠れしています。
ジュンの妄想もハナのずる賢さもリアイリティがないんです。
イナの妄想は、ずっと続きますね。それに比べてユニは大人の女です。
ハナに謝りに来たジュンを遠くから見かけて、初恋の人に似たその面差しを目で追いながら、ぼんやりと立ちつくす姿が、良かった。
そしてラスト近くの、イナとユニが路頭で再会するシーンで、全身を震わせて痛切な思いを表現するチョン・ジニョンと、それを静かに受け止めるイ・ミスクの繊細な演技にも胸を打たれた。
イ・ミスクが漂わせる成熟の“エスプリ”の香り。
イ・ミスクさんがどんなすごいおばさんや、母親を演じようとなんか私は好きなんですよね。「凛」としているからかな。
現代に入ってからの展開では、「夏の香り」「千日の約束」「女の香り」ではないですが、なぜにユニを病気にしてしまったのが、またもや現実逃避。
家族への愛情と、恋人への愛情の間でどちらを取るべきかという葛藤も退屈でした。
鮮烈な映像美に対して、ストーリーの印象が非常に弱くて薄い。
激しい駆け出すような若い熱情と、長い年月を色褪せない「初恋」への想いを鮮やかに対比して描き出した映像・色彩のマジックに酔った物語ですね。
この「ラブレイン」でのユン・ソクホ監督の「初恋」「夢」「70年時代の青春への想い」を素敵な俳優陣と、音楽と映像色彩テクニックで見事に仕上げた物語。
多大な費用と時間を惜しみなく注いだ作品でしょうが、巨匠監督の思い入れの産物のような感じですね。
黒澤明監督を思い出しました。
でも、私は、70年代への回帰できて楽しい時間を過ごしました。
「ある愛の詩」は、何回映画館に通ったか。
「卒業」を見て大人の世界を感じ、「シェルブールの雨傘」「みじかくも美しく燃え」の映画を思い出した時間。
4話までの懐かしい曲の数々。。。
ジュンとハナのこれからには、何も感じない。若いもんね〜
なんか70年代に青春を過ごした我々への素敵なプレゼントの映像の数々、音楽の数々。
うれしいですね。
イナとユニがお互いの胸のなかに秘めてきた「想い」は色褪せずに残っていってほしい。
70年代の海岸で2人で眺めた海の向こうの外国でひっそりと結ばれることになったのか。。。