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D.★P. -脱走兵追跡官- 見ごたえのある作品でした!

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Nシリーズ『D.★P.』 脱走兵追跡官 全6話 Netflix  2021年

「大韓民国の男子は法の定めるところにより兵役の義務を遂行しなければならない」ー大韓民国兵役法 第3条……..オープニング映像で、ジュノを演じるチョン・へインさんがこちらを振り向き、何かを訴える様な鋭い視線で我々を見つめます。「このドラマを見て何を感じるのか。このままでいいのか? 傍観者のままでいいのか?」と私たちに厳しく問いかけているように思えました。

強い権力を持つ人間が、正義をかざす韓ドラは、たくさん視聴してきましたが、弱者から正義を訴えるドラマ、それも韓国徴兵制度の諸問題を炙り出すメッセージのある社会派ドラマでした。

”軍隊”という組織の中で蔓延する、拭いきれない問題に焦点を定めてドラマは展開されました。脱走兵を追う組織、軍務離脱逮捕組のD.P.(Deserter Persuit=脱走兵追跡)にスカウトされるアン・ジュノ。つかみどころのない先輩ハン・ホヨルとバディを組み、様々な事情を抱えた脱走した兵士を追う任務につきます。

演出:ハン・ジュンヒ 映画「コインロッカーの女」
脚本:ハン・ジュンヒ/キム・ボトン
原作:キム・ボトン Webトゥーン「D.P: 犬の日」

CAST

アン・ジュノ二等兵▶︎チョン・ヘイン

入隊したジュノは陸軍に配属され、身長が175㎝以上という理由で憲兵になりました。
無口で寡黙で、少し融通の利かない青年の様ですが、彼の観察力と粘り強さが目に止まりD.Pの一員となる。子どもの頃から暴力を振るう父親に殴られないためにボクシングを練習する。そんな環境のせいか、父親の暴力から母親や妹を守りたい、弱い者を守ろうとする正義感のある青年でした。

ハン・ホユル上等兵▶︎ク・ギョファン

陸軍憲兵隊D.Pの組長

つかみどころのない飄々とした先輩上等兵、ハン・ホユル。自称”ニュータイプ”の兵士。先輩の兵士とは違い、軍人らしい堅苦しさもなく遊び人に見えるが、スイッチが入ると熱い男に変身する。何を考えているのかジュノには分からず、彼とのバディは、ジュノにとって新しい挑戦でした。
脱走兵は2パターンだ。 何をしでかすか分らず恐ろしいヤツと捕まえるのが恐ろしいヤツだ。

パク・ボグム中士▶︎キム・ソンギョン

陸軍憲兵隊の軍曹、D.Pのリーダー

ジュノの勘の鋭さや、物覚えの良さ、ボクシングをしていた過去に目をつけて、D.Pの部署に誘います。自分の評価や進級ばかりを考えている大将やイム補佐官と違い、
いつも疲れて見え、常にジュンホとホユルに小言を言っているが、実は鋭い洞察力でDPを率いている。

イム・ジソプ大将補佐官▶︎ソン・ソック

憲兵隊長の補佐官でD.P.の司令官でもある大尉

陸軍士官学校出身のインテリで、自分の成功だけを気にするタイプ。ボムグと常に神経戦を繰り広げ、D.P.に緊張感を与えている。不条理の中心である憲兵隊長に振り回されることに疑問を感じながらも進級のために耐えている。(※友情出演とかで、存在感は薄かった。)

エピソードの中で語られる脱走したわけ

脱走兵、Ep1 シン・ウソク▶︎パク・ジョンウは、軍内でのいじめられて脱走したが、逃走中の生活費を稼ぐためにクラブで働いたが、そこでもいじめられて絶望し、自らの命をジュノにもらったライターで練炭自殺した。ボムグ中士から、「お前が殺したと」と言われてジュノは、沈黙するしかなかった。

脱走兵、Ep2 チェ・ジュンモク▶︎キム・ドンヨンは、イビキがうるさいと夜眠れない様にするいじめがあった事がわかる。連れ戻されて軍内では、チョン・ヨンドク中佐が、「憲兵が人権を気にしたり、兵士の機嫌をとったりしていたら軍の規律は守れない。このいじめは追及するな。」と指示した。

脱走兵、Ep3 チョン・ヒョンミン▶︎イ・ジュニョン(U-KISS JUN)は、女に貢がせる人間の屑の様な男で、憶測ですが、軍にいるのが退屈で脱走した様な兵士だと思う。

脱走兵、Ep4 ホ・チド▶︎チェ・ジュニョンは、一人残してきた祖母が心配で脱走したが、その祖母が認知症で、その住まいが強制撤去される事が判明する。チドは、その強制撤去作業員なりすまし、祖母を療養施設に入れるためにお金を稼いでいる事を知り、ホユルは、チドの手錠を外した。「婆さんを入院させてから出頭しろと」
ジュノは、初めて母に入隊してから初めて母に電話をかけた。

脱走兵、Ep5 チョ・ソクボン 一等兵▶︎チョ・ヒョンチョルは、セクハラと暴行を繰り返し受けた先輩兵士を、叩きのめして脱走した。彼は、除隊したファン・ジャンス 兵長▶︎シン・スンホに、復讐するために脱走したのだ。

あの優しかったソクボンが、軍内での長期的なイジメ、セクハラで、人格も変わった様に変貌してしまったのを見るのは非常のキツかった。ソクボンが、「オタク野郎」と呼ばれていたり、「ガンディー様の様に優しい男」だったことも軍に来る前の姿がわかりましたが、やはりそうだったのかと……ソクボンは、徴兵されなけば、優しい絵のアニメ作家になっていたかもしれない。でも、彼は一面キレやすい性格も持っていた。理性と狂気のバランスが崩れてしまったのです。

「犠牲なくして人間は何も得られない。痛みのない教訓は無意味だ」これは、Ep1でソクボンが、「好きなアニメのセリフだよ」とジュノに語りかけた言葉である。ソクボンの悲痛な叫びが聞こえてきます。

ソクポンは「何かしないと何も変わらない」と強烈なメッセージを残し、銃で自殺しようとします。エンドロール後にもソクボンと友達だった者が、同様のメッセージと共に凶行に走る短いシーンが…
「変えられる」のは自分から…待つのではなく、何かしないと。

徴兵制の中での韓国軍の根底にある劣悪な上下関係、壮絶ないじめの問題

軍隊という特殊な空間で生じる上下関係から起こる理不尽なパワハラ行為、いじめが描かれていて、Ep1の冒頭から、顔が気に入らないというだけで暴力を振るう先輩兵士の姿や、腕立て伏せを強要し、その兵士の手を踏みつけるなど、目を背けたくなる痛ましい映像が続きました。日常的に繰り広げられる暴行やいじめ、周りは、見て見ぬフリをするという兵士の生活が描かれていて、軍隊の闇の暗い部分を見せつけられました。

脱走した兵士を追跡して逮捕する、スピード感に溢れる展開に見えるが、いじめに耐えられず、鉄柵を越えてしまった哀れな兵士たちの物語で、兵士の顔は、ギリギリの切迫感で打ちのめされていた。

この上下関係は服務中の兵士たちだけではなく、兵士たちの上官である職業軍人にも当てはまり、D.P.の担当官パク・ボムグも悩まされている。ジソプ補佐官も同様でした。軍の中に存在する悲惨な上下関係、組織的な問題が、兵士たちの悲しい脱走に繋がっていくのです。個人的な問題で脱走する兵士もいる様ですが、このドラマでは描かれてはいません。

「徴兵されなければ、彼は脱走しなかった」というジュノのセリフがありますが、そうなのです。
脱走兵は、犯罪者ではないのです。多くはいじめなどに耐えられなくなり、逃げ出した兵士で、彼らは被害者なのです。

服務期間が人生に及ぼす影響

入隊までどんな人生を歩んでいたとしても、その人生は、大きく遮断される。軍隊での厳しい訓練、上下関係にも巻き込まれ、その中で個人の人間性や価値観が大きく変化してしまう過酷な場所であることは間違いないと想像できる。先輩は絶対であり、上下関係は異常なほど徹底されている社会で過ごす時間と、その中に蔓延るいじめの連鎖をどう乗り切るのか。「見て見ぬふりをして」無関心になるのか、ターゲットにならない様に息を潜めて生きるのか。

韓国という兵役法が定められている国で、この法を破ってまで脱走するという理由。逃げた者の苦しみと葛藤。

このドラマを見ていて、軍隊に馴染めないものが逃げ出し、生きる事が許されない…ということに尽きる。こんな閉鎖的な環境で過ごさなければならない韓国の男子は、どう考えているのか。逃げ出す方が、人間的だとさえ思ってしまう。国で決められた事だから、考える事自体が無意味だと、ボグム中士がジュノに言いましたけれど…..

D.Pの二人

アン・ジュノとハン・ホヨル、二人のD.P.は脱走兵を追いながら自身の軍隊生活とも向き合っていく。D.P.という立場のため、普通に街へ出られ、自由に飲食もできてしまうことにジュノは、複雑な心境になります。ホユルは、こうやって兵役を終えるつもりの様です。

脱走兵を追う事で、軍の内部の理不尽さが浮き彫りになり、脱走兵に対して同情や共感を少なからず感じ、脱走兵を捕まえる瞬間は、やりきれなさと、葛藤に苦しむ二人。

軍隊は、強い兵士を養成する組織です。厳しい上下関係を組織し、独自の鍛え方が許される。その中で人間は、上下の関係から生まれる権力バランスの中で、「力」を持ったものは、気兼ねなく、弱いものをいじめる。そして弱い人間は、強い人間の「力を誇示する象徴」にしか無くなってしまう。

それは軍隊だけはない。あのいじめの極悪兵士、ファン・ジャンスも除隊した後、現社会に戻ってきて、コンビニ店に勤めて、社会の上下関係で軍隊時代の自分を懐かしんでいる。彼には反省などない人間になってしまっていた。ある意味、軍隊でモンスターになってしまったのだ。力を誇示したがるモンスター、劣等感を持ったモンスターを……….

ジュノという青年

彼もあの暴力的な父親とその父親から離れない母親に対して、怒りを常に感じています。母は、どうして今の状況から脱出しようとしないのか。母は、どうあがいても変わらないと考えているからです。そんな母への葛藤や、軍隊での理不尽な扱いの中で、彼は常に揺れ動き、やるせなさを感じています。

軍隊だけではなく、自分の周りも「何もしないと何も変わらない」のです。

そして最後のジュノの行動、指揮官の指示を無視して行進せずに、反対方向へ歩き去る姿が。
あれだけの事件が起きても変わらない軍隊、そういう世界に決別しようともしているジュノの姿でしたが、どういう風に捉えるかを視聴者に委ねた様なエンディングでした。

最後に

このドラマが訴えたい徴兵制の問題点は、軍隊という組織についても正直なところわからないので、何も言えません。でもこういう構図は、今の社会でもありふれている。いじめの悲惨さとそれの連鎖が、人間のメンタルに影響を与え、閉鎖的な環境でのいじめは、もっと悲惨であり、そのいじめを断ち切る事がどれだけ難しい事かを描き出していました。

脱走兵という衝撃的なテーマ、そして描かれる彼らの切羽詰まった状況での行動を通して、韓国社会の理不尽さ、やりきれなさは、どの世界でも通じるというところに落とし所を持ってきた、すごいドラマだと思いました。

笑顔のチョン・ヘイン君のイメージが強い方もいられる様ですが、彼は等身大の青年を今までも演じていたし、ただ可愛い笑顔のお顔のスベスベした青年だけはなかったと思っています。そんなヘイン君も、今回は軍隊だから、お顔のメイクも荒々しくてガサガサした感じになっていました。他の兵士になられた役者さんも、素顔を見て、あら?と驚いています。

キャスティングも素晴らしく、スリリングで、無駄な時間の流れもなく、テーマもぶれず、あっという間に見終わり、考えさせられ見応えのあるドラマでした。

素敵な笑顔のお二人ですね

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